風が頬を撫でる。
眼下を見渡せばこの世界を一望できるかのようだった。
空はどこまでも澄み渡り、吹き抜ける風が衣服の裾を、髪を、なびかせていく。
「これが……」
——彼の愛した景色だったのか。
続く言葉は紡がれずに溶けていった。
ひっそりと胸の内に沈めて佇む。
ふと思い立って、そっと瞳を閉じてみた。
瞼の裏でオレンジ色の光が踊る。
それは、彼の放つ輝きにも似て。
彼は私のことを太陽のようだといつも言っていた。眩しくて憧れの存在だとも。
その認識は間違っていると正したかったけれど、全ては遅すぎたのだ。
いつも近くに感じていた存在はもうない。
今までに感じたことのない空虚な感覚が心を蝕む。
「………」
ぽつりと呟いた言葉は、風に乗り霧散した。
とある二人のお話。 BAD END Ver.