Twitterの # 冒険マンガによくある宿とったらベッドが1つしかないハプニングのシチュエーションうちのこ達どうする タグより
レイカとスイレンの謎2人旅シチュエーションでいきなり始まります。
「って、なんでベッドが1つしかないの!?」
「さ……さあ」
受付をすませ、2階の言われた部屋に入って早々、予想もしていなかったことに遭遇して、思ったより大きな声が出てしまった。隣のスイレンもまさかという表情で突っ立っている。
あたし、ちゃんと2人って言ったはずよね? 1人部屋しか空いてなかったってことなのかしら……。それともまさか……恋人同士か何かと思われた……? いや、流石にそれはないでしょ。あたしは慌てて頭に浮かんだ仮説を振り払った。
「とりあえず、この部屋しか無いのかもう一回確認してくるわ」
「オレも行く」
一人で大丈夫なのに、と思いながらも、あたしたちは連れ立って1階へと下りた。
「やっぱりこの部屋しか空いてないのか……」
結果は変わらず、あたしたちはさっきの部屋へと戻ってきた。階段をちょっと上り下りしただけのはずなのに、やけに疲労感に包まれている。
「まあ、お前がベッドを使えよ。オレは床とかで適当に寝るから」
「え! ちょっと勝手に決めないでよ! それならあたしが床で寝るからあなたがベッドを使ったらいいわ!」
「お前……」
スイレンの提案をあたしが即座に否定すると、彼は半眼でこちらを見てきた。
「な何?」
「そんなことしたら……オレが父上と母上にどう思われると思ってるんだ……!? もう二人に顔向けできないだろ!?」
「えっそこまでのことかしら……」
「お前にどう思われてもいいが、オレは二人に幻滅されたくない!」
「ああ……そう……」
まあスイレンらしいと言えばらしい理由よね。そんなに力説されると、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきた。
「でも……カイネおばさまはともかく、キリュウおじさまも何かおっしゃるのかしら?」
あたしはふと思い浮かんだ疑問を口にする。キリュウおじさまはとても物静かな方だし、あんまりそう言うことに頓着するようには思えない。
「いいや、父上はこう言う場面だったら『スイレン……ここは潔くベッドを譲り、床で寝るのが男ってものだぞ!』って、口には出されずとも思われているに違いない……!」
「えっ!? おじさまってそんな感じだったかしら?? あなたの妄想じゃないの?」
「そんなはずは無い……!」
何故だかキリュウおじさまの解釈について、真っ向から対立する羽目になってしまう。しばらく無言で相対していたけど、スイレンは一度言い出したら引き下がらないところがある。
「はあ、まあいいわ。それで」
あたしはため息と共に、早々に降参することにした。そしてそもそもの問題へと話を戻す。
「でもあたしだって譲れないわよ。スイレンを床で寝かせて、あたしがベッドを使ったなんて知られたら……お父様になんて言われるか」
「なんか言われるのか?」
スイレンが心底不思議そうに首を傾げた。
「絶対言うわよ! 『え~? スーちゃんを床で寝かせたの? そこは君がベッドを譲る場面だと僕は思うなあ』って後々まで言われるに決まってるじゃない!」
「そういうものか……?」
スイレンはまだ納得がいってない様子で首を捻っている。確かに今までそんなことがなかったから実際には分からないけど……でも多分そんな感じよ!
「あ〜もう! このままじゃ埒が明かないじゃない! いっそのこと一緒にベッドで寝る!?」
あたしはなんだか段々どうでも良くなってきて言い放った。
「なんでそうなるんだよ……」
「だって話が進まないんだもの! 大体、小さい頃は一緒のお布団で寝てたことなんていくらでもあったでしょ?」
「それはそうだけどさあ……それこそオレがゼイラさんに何言われるか……」
「え? お父様が何か言うかしら?」
「普通言うだろ」
「何を?」
「……」
スイレンはそれっきり押し黙り、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「……?」
「ったく、お前がベッド! オレが床! 異論は認めない!」
「ちょっと! 力づくなんて卑怯だわっ!?」
急に立ち上がったかと思うと、スイレンは強引にあたしをベッドの方に引っ張っていく。そして、あたしを無理やり寝かせて頭から布団を被せると、
「はい、じゃあお休み!」
と言って、自分はさっさと部屋の隅に行ってしまったようだ。
「いきなり何するのよ〜!」
慌てて布団から頭を出すと、スイレンは既に部屋の隅でこちらに背を向けて横になっていた。
「〜〜っ! 今日のところはあたしが引き下がるわ! でも次はないわよ!!」
あたしが宣言すると、
「りょーかい」
と言って彼はこちらも見ずに、ひらひらと右手を振った。
次は絶対負けないんだから……! あたしは固く胸に誓って眠りについた。