目が覚めると、薄明かりの中に白い天井が見えた。まるで長大な物語を読み終わった後のように、ふわふわとした現実感のなさが漂っている。
(ここは……?)
声に出したつもりが、音になっていなかったようだ。どこかで微かな電子音が規則的に響いている。未だ眠りの余韻がゆらめいていて、頭の芯に霞がかかっていた。しばらく淡い光の中を揺蕩うように微睡んでいたが、少しずつ意識が覚醒していくにつれて、見慣れた自室ではなく、覚えのない無機質な空間にいることへの不安が、徐々に込み上げてくる。身じろぎしようとするも、体は思うようには動かず、シーツの皺の形状をわずかに変化させるにとどまった。
ほんの少しののちか、それとも再び眠りに落ちていたのだろうか。不意に、目の端に光を感じた。窓の向こう、向かいにあるビルの窓に、登っていく朝日が反射している。それは、まるで燃え盛るようなオレンジ色で、何故か目を逸せなかった。呼吸をするのも忘れるかという程に、その輝きを見つめているうち、胸の奥からじんわりとしたものが溢れてくる。やがて、堪えきれなかった何かが雫となって目からこぼれ落ちた。
「お兄さんの帰るべき場所へ行ってくださいね」
耳の奥で、鈴を転がすような少女の声が聞こえた気がした。