ある不死者のお話

 

 世界が分かたれた時、僕は一人で生きることを決めた。

 ……はずだったのに。

 あの時の僕には、大切なものなどほとんどなくて、進むべき道がそれしかないのなら、それでもかまわないと思った。

 でも少しずつ大切なものが増えていった。それは次第に僕の両手に余るようになってしまって。

 そして──

 ────本当に大切なものを取りこぼしてしまった。

 それからは、失うことが本当に怖くてたまらなくなった。いつか、目の前からみんな消えてしまって、たった一人この世界に取り残されてしまうのではないか。そんな恐怖感から逃れられなくなってしまった。

 失い続けた先に、何が残るのだろうか。

 或いは彼ならば、未来を視るその力で、全てを知っていたのかもしれない。

 彼は既に失われた。そして彼女も失われてしまった。

 あの雨の夜の記憶を抱えて生き続ける。それは、力ない僕への罰なのだろうか?

 今はただ、残された大切なものを守るために。

 今日も、風吹く丘の墓標の前で佇む。